事業拡大とは?まずは、事業拡大の定義や目的について確認していきましょう。事業拡大の定義事業拡大とは、言葉のとおり「事業を拡大すること」です。企業や事業者が、これまで行ってきた事業の規模を拡大したり、新しい事業を始めたりすることを指します。事業拡大の目的と必要性企業や事業者が事業拡大を行う目的は、利益・売上を向上させ、さらなる事業成長につなげることです。社会や市場は、たえず変化しています。現在、多くの利益が発生している場合でも、同じ事業を続けていればいずれ停滞する日がくるものです。特に近年は、グローバル化、そしてデジタル技術の発展により、社会や事業環境が日々著しく変化しています。企業が持続的な成長を続けていくためには、こうした時代の変化にいち早く対応した新しい事業分野に挑戦していくことも不可欠です。事業拡大の方法事業拡大は、大きく分けて以下の2種類の方法が挙げられます。既存事業の拡大一つは、現在まで行っている事業をさらに拡大していく方法です。既存事業拡大の例これまで提供してきたサービスや商品のターゲットを広げる設備や拠点を増やし、生産性を高める既存事業の拡大は、これまで培ってきたノウハウを活かすことができるため、比較的取り組みやすい方法です。ただ、新たに想定されるターゲットからの需要があるかどうかの市場調査をしたり、設備や拠点を増やした分のリターンが得られるかを想定したりすることが求められます。新規事業への進出もう一つは、既存事業とは異なる新たな事業を開拓する方法です。既存事業の拡大と比べて自社のノウハウを活かしづらいため、かかるコストも大きく、リスクも高い傾向にあります。しかし、新たな市場が開拓できる分、成功すれば安定した利益につながるでしょう。新規事業へ進出する手段は、自社ですべてまかなう方法だけでなく、他の会社と合併したり、買収したりすることを指す「M&A」を行う方法もあります。資金調達方法「既存事業の拡大」「新規事業への進出」のいずれの方法をとっても、事業拡大には多くの資金が必要です。しかし、法人設立時の資金調達とは異なり、軌道に乗っている状態で行う事業拡大の場合は調達方法の選択肢が広がるケースがあります。補助金(助成金):国や地方公共団体、民間団体から受け取れる返済不要の給付金融資:銀行や信用金庫から資金を借りること出資:社員や他の企業に株式を譲渡し、その分の資金を受け取ることまた最近は、インターネットで自社の取り組みに共感してもらえる人を募り、リターンを用意する代わりに出資を受ける「クラウドファンディング」という方法をとる企業や事業者もあります。成功のポイントまず、事業拡大には市場分析が欠かせません。既存事業の拡大か、新規事業の開拓かにかかわらず、市場に参入できる余地があるかをよく分析して見極めることが求められます。また、事業拡大は業績が好調を維持しており、新たな事業を行うためのリソースが確保できるタイミングが最適です。できる限り少ないリスクで進めるためにも、タイミングをよく見極めましょう。事業拡大のメリット事業拡大が成功することで、さまざまなメリットが得られることが想定されます。利益や売上の向上事業拡大が成功すれば、既存事業にプラスされた利益や売上が得られます。特に、新規事業に進出した場合は、新たな利益の大きな柱が立てられるでしょう。増えた利益をさらなる事業拡大へと活かしていけば、長期的に成長を続けることができます。企業の成長とブランド力の向上事業拡大による利益の向上は、企業の成長にもつながります。事業として行えることが増えるだけでなく、収益に余裕ができれば従業員の労働環境の改善や教育に力を入れることもできるでしょう。また、事業拡大の際は「自社のノウハウや強みを活かせるもの」「ビジョンやミッションとリンクするもの」を追求することで、会社のブランド力や価値の向上にもつながります。新規市場の開拓新規市場を開拓するメリットは、単に利益が増えることだけにとどまりません。既存事業に万が一、市場の衰退や売上の減少などの問題が起こった場合に、別の市場でも事業を行っていれば、ダメージを抑えることができます。複数の分野にわたる事業を柱として持っておけば、既存事業にもしものことがあった場合の支えとなるでしょう。事業拡大のデメリットとリスク事業拡大を考える場合は、そのデメリットやリスクについても想定しておく必要があります。コストの増加事業拡大には、コストがかかることは避けられません。資金面だけでなく、人的コスト・時間的コストも必要となります。だからこそ、事業拡大はタイミングが重要です。既存事業が安定して収益を得られているとき、そして人的リソースにも余裕があるときが、事業拡大に適したタイミングといえるでしょう。失敗のリスク事業拡大には、さまざまな失敗リスクが想定されます。特に、資金面での失敗には注意が必要です。先行投資に必要な資金が想定より多くなるランニングコストが増え、赤字が増える想定していたよりも売上が伸びない既存事業が好調でも、新規事業で発生した赤字によって追い込まれることも少なくありません。新規事業だけに集中するのではなく、既存事業も維持する必要があるため、事業拡大は慎重かつ、計画的に進めていく姿勢が求められます。人材やリソースの問題事業を拡大していくには、人材やリソースも不可欠です。新たに従業員を増やしたり、組織編成を立て直したりする必要も発生します。そうした負担が増える点は、一つのデメリットといえるでしょう。また、従業員が増えれば、マネジメントや管理の面でも負担が大きくなります。急に人を増やしすぎたり、人が増えたのに従来通りのやり方を続けていたりすると、組織が崩れる可能性もあります。事業拡大の際は、人材面の再編についても計画的に進めていきましょう。事業拡大の成功事例と失敗事例最後に、事業拡大の成功事例と失敗事例をそれぞれ紹介します。成功事例の紹介経済産業省の資料「2023年版中小企業白書・小規模企業白書」を参考に、「既存事業の拡大」「新事業の開拓」のそれぞれの成功事例を紹介します。【既存事業の拡大の例】・株式会社ふくべ鍛冶(金属製品製造業)包丁などの刃物の製造・修理・販売を手がける企業。新たな取り組みとして、集落を巡り、預かった道具を修理する「移動鍛冶屋」や、インターネットで包丁研ぎ宅配サービスの受け付けを開始したことで、売上が上昇した。従業員数も増加し、地域の雇用にも貢献。【新規事業の開拓の例】・アルファ電子株式会社(電気機械器具製造業)電子部品等の受託製造事業の業績不安を受け、新規事業として米粉麺を開発。製造を他社に委託しながら販路を開拓した後、国の補助金を活用して自社工場を設立した。米粉麺が評価を得ただけでなく、既存の受託製造との相乗効果も現れ、業績回復につながった。失敗事例の紹介事業拡大の失敗事例は、以下のようなものが挙げられます。・A社(アパレルメーカー)主力であったアパレル業界とは別に、子会社を作って野菜販売事業に新規参入。しかし、予想していた以上の顧客を獲得できなかったことに加え、野菜の欠品が続いたことなどが原因となり、およそ3年で撤退となった。・B社(コンピュータ・OA・通信機器メーカー)パソコンなどの電子機器を主力として販売していたB社。大手ゲーム会社と共同開発し、ゲーム機器を新商品として販売した。自社のノウハウを活かした機能を搭載するなどの特徴をアピールしたものの、需要とマッチせず計画通りの売上に至らなかった。事例から学ぶポイント成功事例と失敗事例を見比べた際、最も大きな違いとして現れているのが「顧客のニーズとマッチした事業となっているか」です。たとえば、株式会社ふくべ鍛冶の事例では「道具を直したい・包丁を研ぎたい」と思っている人のニーズを見通し、自社の持つノウハウと「移動鍛冶屋」やインターネットの利用によってそれに応えることに成功しました。また、アルファ電子株式会社の米粉麺についても、健康志向が高まる社会のニーズにマッチした商品といえます。最初は他社へと委託してスタートし、その後補助金を使って自社工場を設立したという手順についても、リスクを考慮した計画的な行動です。一方で失敗例については、いずれも見込んでいたよりも「利用したい」と思う人が少なかったことから、顧客ニーズの分析が足りていなかった可能性が高いといえます。事業拡大においても、顧客ニーズや社会課題の分析が不可欠であることを理解しておきましょう。まとめ - 事業拡大で社会課題やニーズに応える企業や事業者が成長を続けていくためには、著しく変化していく現代社会に合わせた新しい取り組みを積極的に行っていくことが求められます。事業拡大はリスクもありますが、企業がさらに成長を遂げる上で欠かせない手段です。それまで自社が築いてきたノウハウを活かしながら、社会課題やニーズに応えられる方向性の事業拡大を目指しましょう。事業拡大を成功させるために、知識やスキルを身につけることも有効な手段の一つです。事業構想大学院では、新規事業の構想と事業の実践・育成に特化した研究課程が学べるMPD(事業構想修士)プログラムを展開しています。アイデアをゼロから生み出し、未来につながる新しい事業を創出する人材育成を目指したプログラムです。「新規事業を構想してみたい」「自身で事業を始め、成功させたい」と考えている方は、下記ページも参照ください。事業構想修士(MPD)とは