人材育成の定義とはまずは、人材育成の定義から確認していきましょう。企業の未来をつくるもの人材育成とは、企業が経営目標の達成を目指し、従業員を育てることです。業績の向上につながるようなスキルや技術の習得機会を設け、成長を促します。どの企業においても「人材」は大切な経営資源です。事業や企業が成功するかどうかの鍵は、業務を遂行する従業員が握っています。経営目標の達成は、それぞれの従業員が達成に必要なスキルを身につけていなければ実現できません。人材育成には時間・費用などのコストや人的リソースが必要となり、負担がかかる部分もあります。しかし、人材の成長なくして企業の成長は期待できないでしょう。人材育成は、企業の未来をつくるものとして優先すべき取り組みの一つともいえます。人を育て成長させることの意味現代日本では、少子高齢化や人口減少などによる労働人口の減少が課題となっています。そうした社会の流れの中でも、従業員一人一人のスキルを長期的な視点で高めていく手段として、人材育成が重視されているのです。さらに現代は、テクノロジーの進化によって企業に求められることも急速に変化しています。優秀な人材を採用することも重要ですが、そうした変化に対応できるスキルや知識を随時身につけられる環境を用意できるかどうかが、企業の成長を左右するといってもいいでしょう。企業が長く成長していくためには、将来的に会社に必要となるものを予想し、先回りしてそれを実現できるスキルを育成していくことが求められます。人材育成の7つのポイントここからは、人材育成において特に大切なポイントを7つに分けて解説します。企業のビジョンとミッションの理解企業におけるビジョン・ミッションは、組織のあり方や目指していく方向性を示すもので、あらゆる企業活動の指針となります。人材育成においても、自社のビジョン・ミッションを軸とすることが重要です。育成を行う側はビジョン・ミッションの実現に近づく教育プログラムを、教育を受ける側はビジョン・ミッションを理解し、自分の属する企業が目指す方向について理解することが大切になります。個別のニーズに合わせた教育プログラム持っているスキルや必要とされるスキルは、従業員一人一人によって異なります。それぞれが持つ役職や役割、勤務年数だけでなく、厳密に言えば性格や能力による違いもあるでしょう。そのことを踏まえずに画一化された教育だけを行っても、本当に必要な力を培うことができません。各従業員のスキルや経験に応じた教育プログラムが提供できれば、より大きな企業の成長につながるでしょう。実践的なトレーニングとフィードバック人材育成の方法はさまざまですが、学んだことを実際の現場で活かせる実践的なトレーニングは特に重要です。いくら講義やセミナーで受動的に学んでも、それを実際の業務で活かす場がなければ十分な力が身につくとは言えません。実践的なトレーニングを進め、適切なタイミングで定期的に評価やフィードバックを行うことで、効率的に必要な力を育成できます。メンターシップとコーチング人材育成においては「誰が教育するか」も非常に重要です。ロールモデルとなれる経験豊富な従業員がメンターやコーチとなることでより効果的になります。メンターが適切なメンターシップやコーチングスキルを身につけているのが理想ですので、勤続年数の長い従業員に、メンターシップについて学ぶ機会を設けるのもいいでしょう。また、外部の専門家にコーチングを依頼する方法も一つです。最近では、高いスキルを持つコーチングの専門家もいます。人材育成の一環として、そうした社外の専門家による面談の機会を設けることも効果的でしょう。そして、指導を受ける側にとっては集団的な指導ではなく、一対一の教育が理想的です。人的リソースはかかるものの、よりきめ細やかなサポートで人材育成の効果を高めることが期待できます。キャリアパスの明確化人材育成を行う側には明確な目的があったとしても、育成される側にそれが浸透していなければ、価値のある育成機会にはなり得ません。人材育成を行う際は、必ずその後のキャリアパスを明確化することも重要です。具体的には、それぞれの従業員が将来的に目指すべき職務や役職、スキルを明示するようにしましょう。人材育成を受ける目的が明確になれば、指導を受ける側の意欲も高まります。社内コミュニケーションの強化人材育成は、なにか特別な教育プログラムを組み、それを受けてもらうことだけにとどまりません。普段の業務を通しても、それぞれの従業員に必要な力を身につけてもらう機会を用意することはできます。例えば、社内コミュケーションを強化し、情報共有しやすい環境、協力しやすい環境をつくることで、おのずと従業員の成長機会は増えるでしょう。特に上司と部下などの上下間や、部門間でのコミュニケーションを活発にすることで、普段から人が育ちやすい雰囲気を作ることができます。継続的な自己学習の推奨従業員が「新しい知識やスキルについて学びたい」と思ったときにいつでも学べる環境や、学ぶ意欲を持ちやすい環境をつくっておくことも重要です。例えば、スキルアップに役立つ書籍の購入費やセミナー参加費用を会社負担にすることで、従業員が積極的に学ぶ機会を創出できます。業務を行っている間や、特別な教育プログラムを受けているタイミングだけでなく、継続的に自己学習がしやすく、学ぶ意欲を持ち続けられる環境づくりにも力を入れてみましょう。人材育成の具体的な手法と施策ここからは、人材育成の手法や施策について具体的にご紹介します。企業の成長・発展を目指す方法企業の成長・発展につながる人材育成を行うために、まずは自社の状況を分析し、必要なスキルを明確にすることが重要です。ミッション、ビジョン達成のために必要な力、克服すべき課題を分析する必要な力をつける方法、課題を解決する方法を考える誰に・どんな力を身につけてもらう必要があるかを考える「スキルマップ」などを作成し、どのように教育を実践していくかを考えるスキルマップとは、それぞれの勤務年数や役職に必要とされる能力を時系列順に整理したものです。スキルマップの作成を通じて、従業員の勤務年数別にどんな人材育成プログラムが必要かを可視化しながら整理することができます。スキルマップが明確になれば、それぞれの力を身につけるためにどんな教育プログラムが必要かを考えていきましょう。人材育成の方法は、主に以下のような手段があります。【人材育成手段の例】・OJT(On the Job Training=職場内教育)研修や実務を通して業務スキルやノウハウを身につける・Off‐JT(Off the Job Training=職場外訓練)e-ラーニングや講習など、日常の実務以外の場で学ぶ・自己啓発従業員個人に書籍やセミナー参加、資格の検定受験を促す・メンター制度、コーチング知識と経験を持つ上司が指導役となり、新入社員の成長をサポートする・目標管理制度個人またはグループで目標を設定し、達成度を評価する人材の能力を高めるだけでなく、経営目標の達成方法人材育成のゴールは、人材の能力を高めることにとどまりません。人材育成を経て、どのように経営目標を達成するかまで見据えた長期的な計画を立てる必要があります。人材育成を経営目標の達成に結びつけるために、育成した能力を発揮させる場を設けるところまで計画しておきましょう。具体的には、身につけた力が活かせる業務に取り組んでもらったり、実際に身につけたスキルが活かせるプロジェクトを組んだりすることが挙げられます。人材育成の課題と解決策人材育成に伴って発生しやすい課題として、以下のようなものが挙げられます。時間とコストをかけても効果が感じられない指導者側、または指導される側の意識が低い最適な育成方法の見つけ方がわからないここからは、こうした人材育成における課題の解決策について解説します。企業の経営計画や方向性に合わせた育成方法人材育成を計画する最初の段階では、ミッションやビジョンと合わせて「企業の経営計画」「方向性」を把握することも重要です。今後、自社が何を見据えて事業を行っていくのか明確化し、そこから必要なスキルや知識を逆算して考えてみることで、効果的な人材育成へとつなげられます。その点を考慮することなく、闇雲に時間とコストをかけても満足のいく結果が得られません。また、指導者側、指導される側も、目的や方向性が把握できていなければ、取り組む意欲が低くなってしまうでしょう。必要であれば、経営層に直接話を聞いてみると方向性が見えるかもしれません。自社の方針とずれた方法をとらないよう、まずはゴールや目指す方向を明確にしてみましょう。会社ごとの必要な能力の違いと対応策従業員に求められる能力やスキルは、それぞれの会社によって異なります。新卒・若手社員の研修やOJTを実施していたとしても、組織が本当に必要としている能力とリンクしていなければ、自社の成長につながる人材育成ができているとはいえないでしょう。企業に必要な能力は、企業の方向性だけでなく、従業員が現在どんな能力を備えているかにも左右されます。そのため、それぞれの従業員がどんな能力やスキルを持っているのかを把握することも重要です。従業員の人事評価や持ち合わせているスキルを明確化する手段として、アンケートや周囲からの評価シート、タレントマネジメントシステムの活用などが挙げられます。こうした方法を駆使して、従業員の現在の状況、今後育成が必要な能力を把握した上で、人材育成プランを検討するとより自社に合った効果が期待できるでしょう。人材育成と人材開発・教育訓練の違い人材育成とセットで使われるキーワードとして「人材開発・教育訓練」があります。これらのキーワードと比較しながら、あらためて人材育成の定義について詳しく確認していきましょう。人材育成の定義の詳細人材育成と混同しやすい「人材開発」「教育訓練」は、厳密にはそれぞれ以下のように定義されます。人材開発:それぞれの人材が持つ潜在的な能力を最大化する教育訓練:人材育成の手段として、知識やスキルを身につけるための訓練を行う人材開発は、従業員それぞれが持つ個性や潜在的な能力を伸ばすことを指します。特定の人材に必要なスキルや知識を身につけてもらう人材育成とは異なり、全従業員を対象にして行われるものが多いです。そして、人材育成の一環として、特定の人材にスキルや知識を身につけてもらうために行う研修やトレーニングのことを教育訓練と呼びます。人と組織の力を高める方法人材育成の重要なポイントは、企業の目標とリンクさせられる点です。企業が目指す方向性やビジョンに基づいた人材育成を行うことで、従業員自身の成長と企業の成長がつながり、組織の力を高めることにつながります。人材開発はあくまで個人的な能力を最大化させることが重視される傾向にありますが、企業の目指す方向性とリンクさせれば、人材育成と同様に組織力の向上につなげられるでしょう。人材育成・人材開発の両方において、企業の目標とマッチしたゴールを設定することが重要です。人材育成のトレンドと未来の展望最後に、現在の人材育成のトレンド、そして今後求められるスキルの展望について解説していきます。テクノロジーの進化と人材育成現代は特に、急速な勢いでテクノロジーが進化を遂げています。それに伴い、DXなど、それぞれの企業に求められることも数えきれません。人材育成の観点でも、進化するテクノロジーに適応できる知識やスキルを従業員に習得してもらう機会を設けることが求められています。そのためにはまず「企業全体としてどのようにデジタル化やDXに対応していくか」という方向性を定めることが重要です。そこから逆算していけば「従業員にどんなスキルを習得してもらう必要があるか」も明確になるでしょう。現在、日本では「リスキリング」「リカレント教育」などの学び直しの機会も広がりつつあり、先んじてこうした取り組みを行っている企業も少なくありません。他の企業の取り組みや事例を参考にしながら、自社でどのような人材育成プログラムを組むか検討してみるのもいいでしょう。グローバル化時代の人材育成の取り組みグローバル化が加速している現代社会では、企業でも「グローバル人材」の育成が求められています。グローバル人材に求められるのは以下のような力です。語学力、コミュニケーション能力主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー出典:文部科学省「グローバル人材育成推進会議 中間まとめ」上記以外にも、幅広い教養、リーダーシップ、メディア・リテラシーなども必要になってくることになります。日本は今、少子高齢化や人口減少などさまざまな課題を抱えています。企業が成長を続けるためには、国内にとどまらず、国外も視野に入れた事業展開がますます重要となるでしょう。海外展開を積極的に行う企業は、こうしたグローバルな人材育成にも積極的に取り組んでいます。具体的には、英語学習の機会を従業員に提供することはもちろん、海外に支社を持つ場合は現地研修を取り入れたり、語学力だけでなく、プレゼンテーションやコミュニケーションスキルを高める研修を導入したりと、方法はさまざまです。まとめ - 企業の未来を支える人材育成企業の成長を目指す上で、人材の成長は欠かせません。多くのコストやリソースが必要となりますが、長期的な視点で考えれば、企業の未来を左右する最優先事項とも言えます。テクノロジーの進化やグローバル化などの時代の変化も見据えながら、企業の未来を支える人材育成に取り組むことが求められるでしょう。人材育成に関しては、政府から助成金を受け取れる制度もあります。「【企業向け】人材開発支援助成金「人への投資促進コース」とは」で詳しく解説しているため、そちらの記事も合わせて参考にしてください。事業構想大学院大学では、MPD(事業構想修士)の取得を目指す教育プログラムを展開しています。「構想」に重点を置き、未来につながる新しい事業を創出する人材の育成を目指すプログラムです。新規事業を構想するための研究はもちろん、産業研究やIT、経営戦略やクリエイティビティといった多様な観点から、企業の成長に貢献できるビジネススキルが習得できます。詳細は、下記ページも参照ください。事業構想修士(MPD)とは