人材開発支援助成金とは?まずは「人材開発支援助成金」の概要について解説していきます。助成金の目的と背景厚生労働省は「人材開発支援助成金」について、以下のように定義しています。「事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度」出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」現代日本は、慢性的な労働人口不足の問題があります。労働人口の減少は国家の生産力に直結する課題です。その対応策として、それぞれの企業で働く従業員一人一人が能力を発揮すること・スキルアップをしていくことが重要視されています。人材開発支援助成金は企業に対し、従業員がさらにスキルを身につけられる人材育成体制をとることを支援するための制度です。助成金を効果的に利用することで、企業側も生産性の向上や経営課題の改善につなげられるでしょう。人材開発の重要性人材開発とは、従業員それぞれが持つ能力や個性などを発掘し、その力を最大化させることです。それぞれが仕事において十分な力を発揮できれば、必然的に企業全体の生産性の向上につながります。特に重要なのが、企業のビジョンや経営目標とリンクした人材開発を行うことです。目標に向かって必要な力を伸ばしていくことで、従業員それぞれの活躍の場を増やすことができます。一人一人のモチベーションやビジネススキルを向上させながら、企業の生産性も高まるという、好循環を生み出すことができるでしょう。労働人口不足が課題となる中では、優秀な人材を確保することだけでなく、従業員の力を長期的に伸ばしていくことが求められます。人材開発への取り組みは、そうした課題を乗り越えるために非常に重要な役割を果たすものです。人材開発支援助成金の対象となる企業・研修人材開発支援助成金について、対象となる企業や研修内容について紹介します。対象となる企業の条件人材開発支援助成金を受給するためにはまず、以下の「雇用関係助成金に共通の要件」を満たしている必要があります。雇用保険適用事業所の事業主であること支給のための審査に協力すること申請期間内に申請を行うこと参考:厚生労働省「雇用関係助成金に共通の要件等」(R5.6.26更新)また、人材開発支援助成金は全部で7コース用意されています。それぞれに対象となる事業主の条件が設けられており、それらを満たした場合のみ受給できる仕組みです。人材育成支援コース教育訓練休暇等付与コース人への投資促進コース事業展開等リスキリング支援コース建設労働者認定訓練コース建設労働者技能実習コース障害者職業能力開発コース助成対象となる研修内容助成金の対象となる研修内容や条件について、今回は「人への投資促進コース」を中心に解説していきます。人への投資促進コースは、国民からの提案を基につくられた訓練コースです。「デジタル人材・高度人材の育成」「労働者の自発的な能力開発の促進」「柔軟な訓練形態の助成対象化」の3分野に分けた、5つの訓練を行った場合に助成対象となります。【デジタル人材・高度人材の育成】・高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練高度デジタル人材(※1)の育成のための訓練や、海外を含む大学院での訓練・情報技術分野認定実習併用職業訓練IT分野未経験者の即戦力化のための訓練(※2)【労働者の自発的な能力開発の促進】・長期教育訓練休暇等制度働きながら訓練を受講するための長期休暇制度や短時間勤務等制度(所定労働時間の短縮及び所定外労働時間の免除)を導入した場合・自発的職業能力開発訓練労働者が自発的に受講した訓練費用を負担した場合【柔軟な訓練形態の助成対象化】・定額制訓練労働者の多様な訓練の選択・実施を可能とする「定額制訓練」※1:ITSS(ITスキル標準)レベル4・3となる訓練または大学への入学(情報工学・情報科学)等※2:OFF-JTとOJTを組み合わせた訓練参考:厚生労働省「人への投資促進コースのご案内」人材開発支援助成金の申請方法とポイント次に、人材開発支援助成金の申請方法とポイントについて確認していきましょう。申請の手続きと必要書類人への投資促進コースで、助成金の申請手続きや必要となる主な書類は以下となります。申請書類のデータについては、厚生労働省の詳細ページからダウンロードが可能です。訓練実施前「事業内職業能力開発計画」の作成職業能力開発推進者の選定「職業訓練実施計画届(様式第1-1号) 」、各訓練メニューごとに必要な書類を訓練開始日から起算して1か月前までに必要書類を都道府県労働局へ提出自発的職業能力開発訓練の場合は、計画提出前に就業規則等に制度を定める長期教育訓練休暇等制度の場合は、計画提出後に就業規則等に制度を定める訓練実施「職業訓練実施計画届(様式第1-1号) 」に基づいて行う訓練実施後「支給申請書(様式第5号)」、各訓練のメニューごとに必要となる書類を労働局へ提出上記の手続きを行うと審査が行われ、条件を満たしていれば助成金が受け取れます。助成金を受け取るための注意点人材開発支援助成金の申請には、注意点もあります。訓練実施から助成金の受給までに時間がかかる場合がある研修内容や支給対象となる細かい条件(事業者・労働者両方)を満たす必要がある助成金の申請は、訓練終了後となります。その後、審査が行われた上で支給が行われるため、研修前に受け取ることができない点、受給までに時間がかかる点に注意が必要です。また、厚生労働省のパンフレットを確認してみるとわかる通り、助成金の条件が多く、申請の手続きも簡単とはいえません。申請を考える場合は、厚生労働省の問い合わせ窓口から確認したり、専門家の手を借りたりすることを検討してもいいでしょう。人材開発支援助成金のメリットと活用事例最後に、人材開発支援助成金を申請することで得られるメリットや活用事例について紹介します。企業にとってのメリット効果的な人材開発を行うにはコストがかかりますが、人材開発支援助成金を利用すれば、その一部を政府が負担してくれます。これまで金銭的に余裕がなく、人材開発に踏みきれていなかった企業も少ないコストで実施することができるでしょう。特に人への投資促進コースは、高度デジタル人材の育成に対応したプログラムとなっています。DXやデジタル化が進み、企業にも事業環境のあり方の変化が求められている中で、人材開発は必要不可欠です。今後の企業成長に直結する人材開発のチャンスを活かしてみましょう。実際の活用事例と成功のポイント最後に、人への投資促進コースの活用事例を紹介します。【インターネット関連事業(従業員数20名)の中小企業の例】申請内容:高度デジタル人材訓練支給対象:OFF-JT支給総額:238,800円[経費助成210,000円(資格試験の受験料を含む受講料等280,000円×75%)、賃金助成28,800円(訓練時間30h✕賃金助成960円/h)]訓練の効果:従業員の一部が高度な資格を取得し、専門性の高さが会社の強みに。また、資格取得を通じてプロジェクト管理なども可能となり、管理職登用も実現した。【自動車部品製造(従業員数130名)の中小企業の例】申請内容:定額制訓練支給対象:外部教育訓練機関による営業職研修受け放題講座(e-ラーニング)支給総額:252,000円[経費助成:252,000円(受講料等420,000円×60%)]訓練の効果:1つの契約で個々の従業員に合った幅広い訓練が網羅できた。企業全体の生産性向上につながった。生産性や専門性の向上を実現するためには、計画的な人材育成・開発計画が求められます。しかし、コストがかかること、時間的なリソースが必要になることから、どうしても後回しになりがちです。しかし、事例からわかるとおり、人材開発支援助成金を活用することで、コストのおよそ半分以上の支給を受けられることもあります。また、申請条件が多いことはデメリットでもありますが、選ぶべき教育プログラムの選択肢が絞られるというメリットとして捉えることもできるでしょう。人への投資促進コースを成功させるポイントは、上記の活用事例のように、さらなる生産性向上のために「どんなスキルが必要か」を考えることです。高度な資格である場合もあれば、個々にあった訓練である場合もあるでしょう。それらを見極めた上で、助成金を活用しながら人材開発に取り組むことが重要です。参考:厚生労働省「人材開発支援助成金「人への投資促進コース」活用例」まとめ - 企業の人材開発を支援する助成金の活用方法政府が用意する人材開発支援助成金は、人材開発の活性化をサポートするものです。特に人への投資促進コースは、今後必ずと言っていいほど求められるDXに対応する人材の育成にも対応しています。人材育成については「人材育成とは? 考え方や手法・進め方など」の記事にて詳しく解説していますので、合わせて参考にしてください。事業構想大学院大学では、社会人向けの事業構想修士(MPD)が取得できる講座を展開しています。組織に求められる「構想」に重点を置き、新規事業構想に関する研究を通して、未来につながる新しい事業を創出する人材を育成する学習プログラムです。詳細については、下記ページを参照ください。事業構想修士(MPD)とは