イノベーションとは?まずは、イノベーションの定義から考えていきましょう。イノベーションの定義経済学における「イノベーション」は、製品やサービス、組織などに新しい要素を取り入れたり、要素を組み合わせたりすることで新しい価値を生み出し、革新・変革を起こすことです。「新しい要素」にあたるものは、技術やアイデアだけにとどまりません。新たな市場や資源を開拓することや、組織改革のための新しい制度やシステムを導入することなど、多岐にわたります。「イノベーション」は社会や組織に対する新しい価値を生み出すこととして、幅広く捉えることができる言葉です。イノベーションの語源と歴史経済用語の「イノベーション」は、英単語「innovation」から生まれました。英単語の「innovation」は「刷新」「変革」と訳されます。また英単語の「innovation」の語源は「何かを新しくする」という意味のラテン語「innovare」であるといわれています。経済におけるイノベーションの概念を定義したのは、オーストリアの経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターです。シュンペーターは、1912年に発表した『経済発展の理論』において「イノベーション理論」を提唱しました。経済用語としてのイノベーションが生まれたのは、この「イノベーション理論」がきっかけです。シュンペーターがイノベーションの概念を提唱して以来、さまざまな経済学者が彼の理論を基礎としたイノベーションの考え方を発展させました。イノベーションの広がりと影響シュンペーターは『経済発展の理論』にて「社会に新たな価値をもたらす創造」がイノベーションであると定義しました。具体的には、新しいものを導入する・作り出すことや、組み合わせたことがないものを組み合わせる「新結合」と呼ばれるプロセスを通じ、新しい価値をもたらすことがイノベーションであると提唱しています。日本では、高度経済成長期を迎えていた1950年代頃から、イノベーションを「技術革新」と解釈してきました。実際に日本は、多くの技術革新によって発展を遂げてきた背景があり、現在でも「イノベーション=技術革新」と解釈されることがあります。しかし本来、イノベーションは「新結合」を通して「社会に新たな価値をもたらす」概念です。新しい技術を開発することは、イノベーションにおける一部の要素にすぎません。変化の激しい時代とも呼ばれる現代においては、イノベーションを「技術革新」と狭義に捉えるのではなく、シュンペーターが本来提唱していた「新結合」の定義に基づく、幅広い視点でのイノベーションを重視する重要性が再確認されつつあります。イノベーションの種類イノベーションの捉え方は、これまで多くの経済学者が提唱しています。それぞれの考え方をもとに、イノベーションの種類について確認していきましょう。ヨーゼフ・シュンペーター提唱「5種類のイノベーション」ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを以下の5種類に分類しています。プロダクト・イノベーション:新しいサービス・製品の創出プロセス・イノベーション:新しい生産方法や業務工程の導入マーケット・イノベーション:新しい市場や消費者の開拓サプライチェーン・イノベーション:新しい資源の供給源や流通ルートの獲得オルガニゼーション・イノベーション:組織の構造や運営方法の変革シュンペーターは「どんなものがイノベーションの対象になるのか」に着目し、5つに分類しました。イノベーションが、幅広い要素からもたらされるものであるという解釈がよくわかる考え方です。創造的(持続的)イノベーションと破壊的イノベーション「イノベーションの対象となるもの」で種類分けをしたシュンペーターに対し、アメリカの実業家・経営学者のクレイトン・クリステンセンは「市場に与える影響」の観点から、イノベーションを以下の2つに分類しています。創造的(持続的)イノベーション:既存の製品・サービスを改善し、顧客満足度を高める破壊的イノベーション:新しい発想による新製品・サービスを生み出すまた、クリステンセンは、創造的(持続的)イノベーションにとらわれ、破壊的イノベーションを起こせない状態のことを「イノベーションのジレンマ」と定義しました。イノベーションのジレンマは、実際に既存事業で一定の成果を出してきた大企業などが陥りやすい課題の一つとして挙げられます。クローズドイノベーション/オープンイノベーション2003年には、アメリカの経営学者、ヘンリー・チェスブロウが「手法」の観点から、イノベーションを2つに分類する考え方を提示しています。クローズドイノベーション:自社内部のリソースを利用して変革を起こすオープンイノベーション:外部のリソースを利用しながら変革していくイノベーションを起こすためには、時間や資金のほかに、技術、アイデアなどさまざまなリソースが必要となります。チェスブロウは、それらを外部から利用するか、自社で用意するかによって分類する考え方を提唱しました。特にオープンイノベーションは、産・学・官の力を連携することで新たな価値を生み出す可能性を秘めているものとして、日本政府も積極的に推進しています。参考:首相官邸 成長戦略ポータルサイト「オープン・イノベーションの推進」イノベーションの重要性ここからは、イノベーションが企業においてどんな重要性を持つのか、幅広い観点から解説します。現代ビジネスにおけるイノベーションの役割現代ビジネスにおいては、イノベーションが企業の将来を左右するものとして注目されています。その背景にあるのが、デジタルやテクノロジーの急速な変化です。近年はDXのほか、AIやロボットなどの技術が急速に発達しています。こうした技術の発達は、社会のあり方や市場にも大きな変化をもたらすものです。企業も社会の変化にあわせ、自社の体制や製品・サービスを常に変革させていくことが求められます。現代ビジネスにおけるイノベーションは、企業が時代や社会の変化に合わせて末長く事業を継続していくための重要な役割を果たします。イノベーションによる価値創出イノベーションによって目指すのは「新しい価値の創出」です。単に「新しいもの」を生み出したり、導入したりするだけではイノベーションとはいえません。そこから新しい価値を提供することで、初めて企業や社会、市場に影響を与えることができます。新たな価値を生み出すためには、顧客や社会、あるいは自社が抱えている課題に目を向けることが重要です。その解決につながる技術やアイデアを募り、イノベーションへとつなげることで新たな価値創出が期待できるでしょう。イノベーションと持続可能性先述したように、現代社会は変化の著しい時代です。イノベーションに取り組むことは不可欠ですが、一回限りの変革だけでは持続性を維持できません。企業を末長く存続させていくには「持続可能性」を意識したイノベーションに、継続的な姿勢で取り組むことが求められます。しかし、既存事業に対して変革を続けていく「創造的(持続的)イノベーション」だけでは、いずれ寿命がきて徐々に成果が衰えてしまう点がイノベーションの課題です。持続可能性を高める上では、創造的(持続的)イノベーションだけに頼ることなく、適切な時期を見て破壊的イノベーションと呼ばれる新規事業の立ち上げに注力することも重要です。イノベーションを生み出す要因イノベーションを生み出す主な要因について解説します。イノベーションを促進する組織文化組織内でイノベーションを促進するためには、イノベーションが生まれやすい組織文化を築くことも重要です。例えば、変化や挑戦に対して消極的な企業や、閉鎖的な組織文化の中では、イノベーションは生まれません。新たな技術を積極的に採用したり、従業員が創造的なアイデアを出しやすい雰囲気や仕組みをつくったりと、変化や挑戦に前向きな組織文化を築くことが、イノベーションを生む第一歩です。技術の進化とイノベーション日々著しく進化していく技術の活用は、イノベーションを起こすために有効な手段の一つです。例えば、近年著しく進化しているDXやAI、ロボットなどの最新技術を積極的に活用することで、解決できる社会課題は大きく広がるでしょう。最新技術について知る姿勢、そしてそれらの活用を模索する姿勢が、新しい価値を生むきっかけになります。市場の変化とイノベーションイノベーションを起こすためには、市場の変化に常に敏感であることも重要です。市場を読み取ることは、社会や顧客のニーズをつかむことにつながります。既存の製品やサービスにはどんな新たな価値が必要か、どんな社会課題を解決する新規事業が必要かなど、市場に対してアンテナを張っておくことが、イノベーションのヒントにもなるでしょう。イノベーションのリーダーシップ新しい価値を創造するためには、多くのリソースを費やしながらプロジェクトを進めていく実行力が必要です。それらを先導する経営者には、強いリーダーシップを発揮することが求められます。イノベーションの必要性を共有し、一つの目標に向かって多くの従業員を動かしながら、継続してプロジェクトを推進していくリーダーシップが、イノベーションを成功へと導くカギとなるでしょう。ビジネスにおけるイノベーションの課題ビジネスにおけるイノベーションに伴う課題についても、理解しておきましょう。イノベーションの障壁とは?経済用語の中には「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼ばれる、新技術を事業化する上で、乗り越えなければならない障壁を指す言葉があります。出川通さんによる2004年の著書『技術経営の考え方 ~MOTと開発ベンチャーの現場から』によって提唱された用語です。・「魔の川」:研究・開発段階で存在する壁研究やアイデアを市場ニーズに結びつけ、製品開発につなげるまでの深い構想が必要となる・「死の谷」:製品開発・事業化の段階で生じる壁事業化までには、多くの時間的・金銭的コストとリスクが発生する・「ダーウィンの海」:事業化、市場・産業化における壁市場に定着させるために、競合との競争に勝ちながら生き残る必要があるこれらは新規事業の立ち上げやイノベーションにおいても、乗り越えるべき障壁として挙げられます。それぞれの段階における課題やリスクを想定しながら、根気強くイノベーションを推進していく姿勢が必要です。イノベーションを推進するための戦略さまざまな障壁を乗り越えながらイノベーションを推進していくためには、入念な戦略を練ることも不可欠です。しかし、新しいことに挑戦する場合、事前に想定できる範囲は限られています。実現可能であるかどうか、顧客や市場に受け入れられるかどうかを、過去の経験に基づいて予測するには限界があるでしょう。社内でイノベーションを考える場合でも、新しいものを導入することに否定的な意見が出るなど、反発が起きることも考えられます。こうした不透明な状況の中でも、できる限り成功に近づけるためのイノベーション戦略を練る姿勢が必要です。イノベーションとリスク管理新しい価値の創造に挑戦するイノベーションには、リスクもつきものです。特に、イノベーションを起こすには、コストの増加は避けられません。資金面だけでなく、人的コスト・時間的コストも必要となるでしょう。既存事業も維持しながら、イノベーションに必要な資金や、人材と時間を確保していくことが求められます。一方で、リスクを恐れてイノベーションに取り組まないことも、企業を長く存続させていく上では一つのリスクともいえます。企業を経営していくには、リスク管理を正しく行いながら、イノベーションに対して前向きに取り組む努力と姿勢が求められます。イノベーションを促進する政府の取り組み最後に、イノベーションを推進する政府の取り組みについて詳しくご紹介します。第6期科学技術・イノベーション基本計画現在、政府が推進するイノベーションに関する取り組みの一つに「第6期科学技術・イノベーション基本計画」があります。もともとは、1995年に生まれた「科学技術基本法」に基づき「科学技術基本計画」が推進されていましたが、近年の科学技術の急速な進展を踏まえ、2020年に「科学技術・イノベーション基本法」に変更されました。「第6期科学技術・イノベーション基本計画」は、そうした背景から2021年に生まれたものです。「第6期科学技術・イノベーション基本計画」が目指すのは「Society5.0」と呼ばれる社会の実現です。政府は「Society5.0」を「国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会」「一人ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現できる社会」と定義しています。それらの実現に必要なものとして掲げているのが、以下の3点です。国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会への変革知のフロンティアを開拓し価値創造の源泉となる研究力の強化一人ひとりの多様な幸せと課題への挑戦を実現する教育・人材育成これらの実現には、先端の科学技術を活用したイノベーションを推進することが不可欠としています。日本企業にも、こうした政府の流れにのっとったイノベーションが、今後さらに求められていくでしょう。参考:内閣府「第6期科学技術・イノベーション基本計画」まとめ - イノベーションの本質とその重要性を理解しようイノベーションは、企業や事業を持続的に発展させていくために必要な取り組みです。成功に導くためには「新しい価値を創造する」という、本質的な意味を理解しておくことがポイントです。今後はさらに、現代社会や顧客、組織が抱える課題を幅広い視点から捉えることで、創造すべき新たな価値を考える姿勢が求められていくでしょう。事業構想大学院では、新規事業の構想と事業の実践・育成に特化した研究課程「事業構想修士(MPD)プログラム」を展開しています。アイデアをゼロから生み出し、未来につながる新しい事業を創出する人材育成を目指したプログラムです。イノベーションを成功させるために、必要な知識やスキルを身につける講座も開講しています。詳細は、下記ページも参照ください。事業構想修士(MPD)とは