リカレント教育とは?まずは、リカレント教育の定義や注目される背景について確認しましょう。リカレント教育の定義令和3年8月20日に発表された政府広報オンラインの情報には、リカレント教育は「学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すこと」であると書かれています。「社会人の学び直し」と言い換えられることもある言葉です。リカレント教育における「学び直し」の例は以下のようなものが挙げられます。英語、中国語などの外国語MBA、社会保険労務士などの学位や資格取得経営、法律、会計などのビジネススキル習得プログラミングスキル社会人が学び直す背景これまでの日本は「教育→雇用→引退」といった人生モデルが主流であり、就職した会社で働き続ける終身雇用の文化が定着していました。しかし、現在は「人生100年時代」とも呼ばれるほど平均寿命が延びたほか、情報テクノロジーの発達、働き方改革などに伴い、これまでの常識が大きく変化しています。一度就職した後も「転職や起業に踏み出す」「会社を退職して留学する」「子育てと両立しやすい働き方を選ぶ」「定年後に新しい仕事に取り組む」など、その選択肢は多様です。そうした社会の中で、知識やスキルを必要なタイミングで身につけることができれば、生き方・働き方の選択肢が大幅に広がります。仕事と学習を繰り返す「リカレント教育」に積極的に取り組むことで一人一人のスキルを高めながら、長期化する労働人生をより豊かにすることが求められています。リカレント教育の特徴リカレント教育の特徴について詳しく見ていきましょう。学び続ける意義現代は、ICTやAIなど、デジタル技術が急速に発達しています。時代の変化に伴い、仕事においてはこれまでとは異なる新たな知識・スキルを身につけ、変化に適応していく力が不可欠です。さらに近年は、既存事業の再構築のための構想力、変化に対応するための多視野多視点気づきの能力取得、社会変化に対応するための仮説構築力などの重要性がより高まっています。そうした時代の変化に適応し続けるためには「一度だけ学習する」のではなく「繰り返し学び続ける」ことが求められます。そうした世の中の流れに伴い、重要視されているのがリカレント教育です。仕事に就いてからも、新たなスキルを求めて学び続けることで、自身のキャリアを切り開いていくことにつながります。リカレント教育は「人生100年時代」において多様化するキャリアの選択肢を広げるために、欠かせないものと言えるでしょう。仕事と学びの繰り返しリカレント教育の特徴は「仕事」と「学び」を繰り返すという点です。海外におけるリカレント教育は、いったん仕事を休んで就学に専念することが基本的な考え方ですが、日本では仕事を続けながら学びなおすこともリカレント教育に含まれます。「仕事」「学び」を繰り返すリカレント教育が普及することで、誰もが何歳からでも学び直し、活躍できる社会の実現にも近づくことが期待できます。たとえば、ライフステージの変化や事情によって離職した人も、復職を考えるタイミングで学習できる環境があれば、新しいキャリアを築くきっかけとなります。転職や起業に関しても、自身の望むタイミングで学びたいことが学習できれば、より前向きに検討できるでしょう。そうした復職やキャリアアップや円滑に行える世の中を目指す上で、リカレント教育は重要な役割を果たします。リカレント教育と生涯学習の違いリカレント教育とよく比較される言葉に「生涯学習」があります。リカレント教育との違いや特徴について把握しておきましょう。生涯学習の定義生涯学習とは、人々が生涯に行うあらゆる学習のことを指します。具体的には、学校教育、家庭教育、社会教育、文化活動、スポーツ活動、レクリエーション活動、ボランティア活動、企業内教育、趣味などのあらゆる場面において行われる学習として、広く定義されている言葉です。「令和4年度文部科学白書第3章」によると、生涯学習の目的や意義について、以下のように説明されています。「文部科学省では、生涯にわたる一人一人の『可能性』と『チャンス』の最大化に向け、職業に必要な知識やスキルを生涯を通じて身に付けるための社会人の学び直しの推進など、人生100年時代を見据えた生涯学習の推進に取り組んでいます」参考:「令和4年度文部科学白書」つまり、国民一人一人が生涯にわたって学び続けることで、その人生やキャリアの可能性を広げること全体を指して「生涯学習」と定義していることがわかります。両者の主な違いと特徴リカレント教育は「社会人の学び直し」として、仕事におけるスキルアップ、キャリアアップが目的とされています。一方、生涯学習は「人々が生涯に行うあらゆる学習」として、仕事に関わりのないことや、生きがいにつながる学びについても包括する広い意味を持つ言葉です。社会人がその後の仕事や業務に役立てるための学習を行うリカレント教育は、生涯学習の一部であると認識しておきましょう。企業におけるリカレント教育の導入事例実際に、リカレント教育を導入している企業の事例を確認してみましょう。・味の素株式会社導入の目的:DXによる業務改革、デジタル人財の育成施作例1:会社が費用を負担し社員が学習できるビジネスDX人財育成コースを導入。ビジネスDX人財初級・中級・上級を社内資格として認定施作例2:社内起業家を発掘・教育してビジネスアイデアを事業化するチーム、社外ベンチャー企業の事業育成を支援・促進するチームの立ち上げ・AGC株式会社導入の目的:DXやデジタル技術による新たな付加価値の提供、競争力の強化施作例1:管理者向けDX研修、データサイエンティスト人財育成、工場技能職向けデータ利活用研修など、多層的なDX人財育成体系を整備施作例2:関連研究を行う国内大学・大学院の研究室に社員を派遣。また、経営候補人財を中心に国内大学のプログラムに派遣・サイボウズ株式会社導入の目的:各社員の個性に応じた「100人100通りの人事制度」を実現する施作例1:所属していない部署で業務を経験できる「大人の体験入部」制度を導入施作例2:会社資産を使用する場合を除き、申請や承認を行わずに副業を実施可能DX、デジタル技術に対応する人財の育成を目的としたリカレント教育を実施する企業も多いようです。一方で、サイボウズ株式会社のように、従業員にとってベストな働き方を追求し、希望に沿ったキャリアを築くための学びの場を設けている会社もあります。企業理念や中長期的な目標と照らし合わせ、どんな教育が必要なのかを検討することが重要です。参考:令和4年2月「イノベーション創出のためのリカレント教育事例集 企業編」リカレント教育のメリットとデメリットリカレント教育におけるメリットとデメリットについて解説します。社会人にとってのメリット・デメリット教育を受ける側の社会人にとってのメリットは、リカレント教育によって今後、価値がより高まっていくスキルや知識を身につけられる点です。社内での活躍の場が増えるだけでなく、キャリアアップ、転職や起業など、自身の労働人生における選択肢が広がることでしょう。一方、日本でのリカレント教育は就業しながら受けることが前提であることから、従業員の負担が大きくなることが一つのデメリットと言えます。時間的コストだけでなく、自身で受講する場合は費用も自己負担となります。その分、今の自分・将来の自分にとって本当に必要なスキルが得られるのかをしっかりと見極めた上で教育を受けることが重要です。企業にとってのメリット・デメリットリカレント教育により、従業員が新たなスキルや知識を身につけることは、企業全体の成長につながります。生産性や業務効率が上がるだけでなく、新規事業やイノベーションの拡大も期待できます。既存事業の革新や新しい事業のための構想力、社会変化への対応力などの能力は、昨今では特に重要となっていますが、日々の業務内では身に着けるのが難しい面があります。リカレント教育によって従業員を、求める能力の備わった人材に育て上げられるというのは企業にとっての大きなメリットといえるでしょう。デメリットとして挙げられるのは、リカレント教育を推進する上で費用・時間の両方のコストが必要となる点です。コストが必要となる分、目標や実現したい成長にコミットする教育内容を検討しなければ、コストに見合った成果が得られません。また、教育を受ける側の従業員は、業務と並行したり、やりたい仕事から離れたりしながら学習を進めることが求められます。負担をできるだけ減らす仕組みづくりや、リカレント教育の意義、価値に理解を求め、学ぶ意欲を維持する努力も必要です。まとめ - 社会人の学び直しとしてのリカレント教育の重要性「人生100年時代」、そしてデジタルイノベーションによって急速に変化する世の中において、新しいスキルをその都度身につけ続けることは、自身の可能性を大きく広げるために非常に有効な手段です。自身の会社がリカレント教育に力を入れている場合は、積極的に参加してみるのも良いでしょう。そうでない場合でも、自身で教育機関や国の支援制度などを利用して学習してみるのも有効です。現在は、就業しながらでも通学できる社会人向けの大学院やビジネススクールも多く存在しています。たとえば事業構想大学院大学は、院生自らが事業の種を見つけ、育てるための専門職大学院です。新しい事業を創出する人材を育成する、事業構想修士(MPD)プログラムを展開しています。仕事をしながら、平日夜間や土日を使った受講も可能です。産業研究やIT、経営戦略やクリエイティビティといった事業構想やビジネススキルの向上に欠かせないキーワードについても学習できます。MPDの詳細については、下記のページをご参照ください。事業構想修士(MPD)とは