リスキリングとは?まずは、リスキリングの定義や重要性について詳しく解説します。DX時代におけるリスキリングの重要性ICTやAIなどのデジタル技術が急速に発達している近年の世界の動きは「第4次産業革命」と呼ばれています。中でも顕著なのが、デジタル技術を活用して従来のビジネスや組織に変革を起こすDX(デジタルトランスフォーメーション)です。現代はこれまでにない新しい技術やサービスが次々に生まれており、ビジネスや人々の生活に新たな可能性を生み出し続けています。特にデジタルツールが必要とされたコロナ禍を経て、デジタル化の流れが一気に加速しました。一方で、デジタル化の進行に伴って徐々に変化する仕事やサービスの在り方に対応するスキルが、働き手に必要となることも課題です。既存事業の再構築のための構想力、変化に対応するための多視野多視点気づきの能力取得、社会変化に対応するための仮説構築力なども求められます。こうした第4次産業革命に伴って重要視されているのが、現代の環境に対応するスキルを身につける「リスキリング」です。リスキリングの定義とその背景2022年5月24日に行われた、厚生労働省による「第22回労働政策審議会労働政策基本部会」の資料によると、リスキリングは以下のように定義されています。「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」2020年に開催された世界経済フォーラム「ダボス会議」では「第4次産業革命により、数年で8,000万件の仕事が消失する一方で9,700万件の新たな仕事が生まれる」と宣言されました。ロボットやAIなどの技術の発達に伴い、電話オペレーターやデータ入力、レジやレストランの配膳などがすでに人の手から代替され始めています。今後はさらに人の手が不要になり、消失するリスクのある仕事が多数発生することが予想されています。一方で、時代の変化に伴って必要とされる技術を身につけることにより、新たな仕事が生まれる可能性も大いにあるでしょう。「ダボス会議」では、そうした時代の変化に伴い「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言されました。この宣言がきっかけとなり、現在「リスキリング」という言葉が世界的に注目されています。日本でも、2022年10月に岸田文雄総理大臣が「成長のための投資と改革では、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX(グリーントランスフォーメーション)、DXの4分野に重点を置く」「個人のリスキリングに対する公的支援は、5年間で1兆円のパッケージに拡充する」と宣言したことで、徐々に注目度が高まっています。リスキリングの導入のメリットでは、リスキリングの導入によって、具体的にどんなメリットが期待できるのでしょうか。企業にとってのメリットリスキリングによって、DXに対応するデジタルスキルを社内に広げることは、企業に大きな成長をもたらします。最も期待できるメリットが、業務効率化・生産性の向上です。これまで業務量の多かった仕事も、最先端のデジタル技術を活用することによって新たなリソースが生まれたり、コア事業に集中できたりといった恩恵が生まれます。そこから人材コストの削減も期待できるでしょう。また、社内の人間にデジタル技術や知識を身につけてもらうことにより、デジタル化に詳しい外部人材を雇用するコストも削減可能です。従業員自身も会社への貢献の幅が広がることによってモチベーションが上がり、会社へのエンゲージメントの向上や離職率の低下が期待できます。さらに、獲得したスキルが社内に浸透すれば、事業の可能性も大きく広がります。新たなアイデアが生まれることで新規事業やイノベーションの創出へとつながり、企業の大きな成長も期待できるでしょう。個人にとってのメリットリスキリングは、個人にもメリットをもたらします。リスキリングによって新たなスキルを身につけることで、社内でのキャリアアップや転職などにも役立てることができるでしょう。新しい事業や既存事業の再構築を実現する構想力や、気づきを得る能力はどの分野でも必要とされるでしょう。現在は、会社が必要とする業務内容にマッチするスキルを持った人材を採用する「ジョブ型雇用」の考え方も広がっています。リスキリングで今後ますます必要とされるスキルを身につけることで、活躍の場が広がることも大いに考えられるでしょう。リスキリングは一般的に企業が主体で行われますが、個人的にスキルを磨きたい場合は、働きながら通える大学院やスクールに通うのも一つです。ビジネススキル向上を目的とした教育機関などを利用し、自ら学習に取り組むこともできます。リスキリングとリカレント教育の違いリスキリングと同じく、社会人学習を指す言葉に「リカレント教育」があります。同じ文脈で使用されることも多いため、その違いをしっかりと理解しておきましょう。リカレント教育の定義「リカレント」は「循環」「繰り返し」という意味の言葉です。学校教育から離れた後も、自身のタイミングで就労と学習を繰り返すことで、仕事に求められる能力を磨き続けるための仕組みのことを指します。変化の時代と呼ばれる現代においては、労働者の職業人生も長期化する傾向にあります。その中で「自律的・主体的かつ継続的な学び直し」を推奨するために、国全体でもリカレント教育が重要視されています。リカレント教育については、以下の記事でも詳しく解説しています。別記事「社会人の学び直し「リカレント教育」とは」への誘導文とリンクを設置両者の主な違いと特徴リスキリングとリカレント教育は「主体」「学ぶ目的」「学び方」に違いがあります。・リスキリング主体:企業目的:企業や職業で価値を創出し続けるために必要なスキルや知識を、戦略的かつ実践的に学ぶ学び方:一般的には業務と並行しながらスキルを身につけ、業務に活かすことが求められる・リカレント教育主体:個人目的:就労と学習のサイクルを繰り返すことで、個々の長期化する労働人生をより豊かにする学び方:就業しながらだけでなく、仕事を休んで集中して学習に取り組み、次の仕事に活かすことも想定されているリスキリングは基本的に、企業において求められる新しい知識やスキルを、業務と並行しながら身につけるための学びです。基本的には、企業が主導する人材戦略として行われます。一方のリカレント教育は、社会人になってからも仕事と教育を繰り返すありようのことを指します。そのとき勤めている企業や職業で活かすスキルだけでなく、個人の長い労働人生をより豊かにすることも見据えている点がリスキリングと異なる点です。あくまで主体は個人で、本人が学びたいタイミングで能動的に学習に参加します。海外では、いったん仕事を休んで就学に専念することが多いですが、日本では仕事を続けながら学び直すこともリカレント教育に含まれます。企業におけるリスキリングの導入事例「第22回労働政策審議会労働政策基本部会」(厚生労働省)の資料によれば、日本の中小企業でも積極的にリスキリングを導入している事例があります。・株式会社陣屋(ホテル・旅館系サービス業)の事例リスキリングの目的:従業員全員が接客にデジタルツールを使いこなす取り組みの例:現場目線のシステム開発、積極的な実践での学びや失敗を奨励期待できる効果:業務効率化、顧客満足度の向上・久野金属工業株式会社(金属加工メーカーの事例)リスキリングの目的:従業員がデジタル技術による課題解決を推進できるようにする取り組みの例:従業員主導のデジタル化推進、提案者は実装までを担当期待できる効果:「デジタル活用が当たり前」の社内風土の形成・西川コミュニケーションズ株式会社(印刷系サービス業)の事例リスキリングの目的:AIやデジタルを活用する事業へのビジネスモデル転換取り組みの例:幹部のG検定取得、育成会議の開催、学習チームや表彰制度の導入期待できる効果:組織的な社員のスキル転換の実現参考:第22回労働政策審議会労働政策基本部会 資料2リスキリングの方向性は「デジタルツールを使いこなすこと」「変化を創出すること」「仕事や事業を転換すること」などに分かれます。事例で挙げられているとおり、導入目的を明確化し、従業員が前向きに取り組みながらスキルを身につけられるロードマップを考えることが重要です。リスキリングの導入のポイントリスキリングを導入する場合、押さえておきたいポイントについて解説します。スキルギャップの特定「スキルギャップ」とは、今後必要になることが予想されるビジネススキルと、現時点で保有しているスキルの差を表す言葉です。リスキリングは、このギャップを埋めるのに有効な手段となります。リスキリングをより効果的なものにするためには、このスキルギャップをできるだけ正確に特定することが重要です。テクノロジーの変化に伴い、どんなスキルが足りていないのか、対応できる人材がどれくらい必要なのかなどを、目的と照らし合わせて明確化しましょう。従業員のニーズと意欲の理解リスキリングは、経営者や幹部などの一部の人間だけが必要性を訴えているだけでは進めることができません。実際にリスキリングを行う従業員たちに、その必要性や価値を実感してもらう必要があります。具体的には、DXを推進することによって、どんなメリットがあるのかを説明する方法などが挙げられます。特に重要なのは、会社全体へのメリットだけでなく、従業員個人にもどんな恩恵やプラスの影響があるのかを明確に伝えることです。また、あまりに多くの知識やスキルを一度に求めてしまえば、それだけ学習者側の負担も大きくなります。まずは従業員がメリットを実感しやすい機能の導入に関わるスキルの取得を優先し、リスキリングを進めていく考え方も重要でしょう。従業員は、普段の業務を進めながらリスキリングを行う必要があります。学ぶ従業員自身がニーズを理解し、意欲的に取り組む状態になれば、より効果的なリスキリングが実践できることでしょう。適切な研修・教育プログラムの選定リスキリングを進めるにあたり、その研修・教育プログラムの中身も重要です。理想的なスキルが身につく内容となっているかどうかはもちろん、従業員が意欲的に学びを進められる内容であることが求められます。リスキリングは、その学習方法も多様です。研修や通信講座のほか、外部から講師を招いたセミナー形式、スマホ、タブレットを使ったオンライン講座やeラーニングなどから、従業員が取り組みやすいものや、自社に合ったものを選ぶとよいでしょう。また、業務と並行しながら学習時間が確保しやすいような仕組みづくりも重要です。学習機会を提供する分、働き方についても柔軟性が高められれば、より学びやすい環境となるでしょう。定期的なフィードバックと評価の実施より効果的なリスキリングを進めるためには、従業員へ定期的にフィードバックを行うことも重要です。細かく進捗を確認する抱えている不安や懸念と向き合う失敗を責めるのではなく、挑戦を奨励する率直な意見を拾う学習がスタートした後に従業員任せにすることなく、とことん寄り添う姿勢を見せることが、リスキリングの意欲の維持につながります。また、意欲的にリスキリングに取り組んだ者や、その成果を発揮した者を評価する仕組みづくりも重要です。リスキリングに対するモチベーションを高め、学び続ける社内風土を作ることができれば、長期的な成長につながることでしょう。リスキリングのROI「ROI」は「Return On Investment」の略称で、かけた費用に対してどれだけ利益を上げられたかを示す指標を意味します。リスキリングにおいても、このROIを意識することが不可欠です。まず、リスキリングを社内で行うためには、スキルギャップの特定から学習プログラムを選定する準備の段階、そして従業員自身に学んでもらう段階に時間的コストがかかります。もちろん時間だけでなく、外部の専門家への協力をあおいだり、教材を導入したりと、費用面の負担も避けられません。しかし長期的な視点で見れば、リスキリングを経てDXを推進することによる事業成長も大きいはずです。従業員自身のスキルが高まれば、採用コストの削減などの恩恵も見込まれます。リスキリングに必要なコストだけでなく、その先にあるリターンやメリットまで、長い目で見た上で取り組むことが重要です。DXやAIの時代におけるリスキリングの役割急速にDXやAI技術の発達が進む現代においては、新しく生まれる仕事や変化する仕事に対応していくことが求められます。リスキリングは、そうしたデジタル化に伴って必要なスキルを習得するために、重要な役割を果たすものです。また、急激に変化を遂げる時代において企業・事業を成長させたり、新しい事業やイノベーションを生み出したりする上でも、リスキリングは欠かせません。「第22回労働政策審議会労働政策基本部会」の資料によれば、大企業を中心に日本でも徐々にリスキリングの重要性や認知度が上がってはいるものの、日本全体としてはDXを理解し、必要と認識する割合は低いと言われています。その中で、いち早くリスキリングの重要性を見出し、前向きに取り組む姿勢が持てるかどうかが問われています。まとめ - リスキリングで得られる新たな可能性企業におけるリスキリングは、DXやAIの進化が急速に進む現代における急務とも言えるでしょう。デジタルスキルを身につけた人材が育つことは、業務効率化といったメリットだけでなく、事業の拡充や新規事業への挑戦にもつながります。DX時代における新たな可能性を拡大していくためにも、リスキリングの重要性を理解し、大いに活用していきましょう。事業構想大学院大学では、社会人向けの事業構想修士(MPD)プログラムを展開しています。MPDは、組織に求められる「構想」に重点を置き、新規事業を構想するための研究を通して、未来につながる新しい事業を創出する人材を育成するプログラムです。その中で、産業研究やIT、経営戦略やクリエイティビティといった多様な観点から、ビジネスや社会課題への理解や洞察も深めることができます。平日夜間、土日を使った受講も可能です。MPDの詳細については、下記のページをご参照ください。事業構想修士(MPD)とは